ラヴクラフトは不遇のままその生涯を閉じた。だが、彼の創造したクトゥルー神話は没後高く評価され、時代を越えて世界の読者を虜にしている――。頽廃した港町インスマスを訪れた私は、魚類を思わせる人々の容貌の恐るべき秘密を知る(表題作)。漂流船で唯一生き残った男が握りしめていた奇怪な石像とは(「クトゥルーの呼び声」)。英文学者にして小説家、南條竹則が選び抜いた、七篇の傑作小説。
深い恐怖と興味の入り混じった作品でした。 特徴的なホラー要素が詰まった物語に、一瞬で異様な世界へと引き込まれます。 登場する街は全て、その描写からして非常に不気味で異様な雰囲気を漂わせています。廃墟となった建物や奇妙な住民たちの描写を通じて、常に一貫した不安感を与えられました。特に、町の住民が人間ではない何かに変わりつつあるという事実が明らかになる場面が恐怖の頂点です。 また、文体と想像力にも魅力を感じます。 非常に細かい情景描写に、まるでその場にいるかのような感覚を味わえました。クトゥルフ神話の一端が垣間見え、インスマスの秘密が明らかになるにつれて、未知の恐怖に対する好奇心が止まらなくなります。 全体を通して、単なるホラー小説以上に人間の深層心理に潜む恐怖や未知への不安を描いた作品と感じました。その異様な雰囲気とインスマスという町の存在は未だに心に残っています。
|